対応のある2群の平均値差の検定とは、マッチングによって被験者が割り振られた、あるいは同じ被験者が複数の条件に割り当てられた、相関のある2群における従属変数yの平均の比較をする推測検定である。
独立な2群との比較
独立な2群の検定は、実験における群分けの手続きが簡単であり、統計的にも標本平均値差が母集団平均値差の不偏推定量となるなど、良い性質をもっている。
しかし、無作為抽出を行う場合、その結果としてかなり偏った群分けになる可能性がある。たとえば2群の知的課題の得点を比較する際、第1群に知的水準が高い被験者が集まってしまい、母集団平均値差を過大推定してしまう可能性がある。逆に、第2群に知的水準が高い被験者が集まってしまい、母集団平均値差を過小推定してしまう可能性もある。
マッチング
このようなことがないように、従属変数である知的課題得点に影響を与えると予想される、たとえば知能検査や学校のテスト得点などを参照して、あらかじめ得点が近い被験者2人をペア(ブロック)にし、それぞれを第1群と第2群に割り振ることによって2群を等質化することができる。これをマッチングという。また、マッチングを行うことによって、標本平均値差の標準誤差が小さくなり、母集団平均値差が正確に標本平均値差に反映され、結果として母集団平均値差を検出する確率である検定力が大きくなる ことが期待される。それと同時に標準誤差の大きさに規定される信頼区間の幅も小さくなることが期待される。
マッチングの影響
マッチングによって標準誤差が小さくなる程度は、従属変数に関する対間の相関の程度によって決まる。マッチングが有効に機能すれば、その相関が高い値を示し、その分標準誤差は小さくなる。一方、もし従属変数の対間にほとんど相関がなければ、データとして独立な群と変わらず、対応のあるデータとして扱う利点がない。むしろ、実質上独立である2群を対応のあるデータとして分析すると、かえって検定力が低くなり、また信頼区間の幅も大きくなってしまう可能性がある。
被験者内計画
対応のある2群は、個々の被験者自身がブロックとなるケースもある。つまり同一の被験者を複数の実験条件に割り当てる被験者内計画である。実質的には1群であるが、各被験者をブロックとして、対応のある2群としてデータ分析を行う。
対応のあるt検定
@対応のある2群の検定には、変化量υ=y1-y2の標本分布が利用される。変化量については、υ(平均)=μ1-μ2という関係も成り立つ。すなわち、2群の平均値差の検定ではあるが、実質的にはυ(平均)というひとつの変数についての検定となる。
A帰無仮説は、2群間には差がない、つまり「変化量は0である」となる。この帰無仮説のもと、υが平均μυ、分散σ2υの正規分布にしたがうと仮定する。したがって、標本平均υ(平均)の分布も正規分布となる。
Btを検定統計量とし、その値をt分布に照らして検定するt検定を行う。標本平均υ(平均)は、υ(平均)-μυをσμ(平均)で割ることによって標準化される。しかし、υの母集団標準偏差は未知であるため、不偏分散の平方根を推定量として用いる。上述した帰無仮説のもとでは、検定統計量tはυ(平均)を標準誤差の推定値で割ることによって求められる。この検定統計量は自由度n-1のt分布にしたがうことになる。
Dしたがって、「変化量では0である」という帰無仮説のもと、データから得られた検定統計量tの実現値が、t分布表の任意の有意水準における棄却域の限界値より大きければ、帰無仮説を棄却し、「変化量では0ではない」という対立仮説を採択する。すなわち、対応のある2群の平均値差が統計的に有意であるという結果が導き出されたことになる。
以上のように、対応のある2群の平均値差の検定について述べることができる。
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